この人に聞く!vol.6 小原流鹿児島支部 鈴木 査智子 先生 鈴木 茜 先生

鈴木 査智子 先生
(鹿児島支部参与、小原流研究院副院長)
鈴木 茜 先生
(鹿児島支部幹部、小原流研究院講師)

鹿児島支部役員として、そして小原流研究院役職者としても活躍されている鈴木 査智子先生と鈴木 茜先生。
今回は、鹿児島支部内で取り組まれている独自の活動についてお話しをお伺いしました。
支部の活性化や新しいチャレンジを模索されている皆様、ぜひ参考になさってください!

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大都市圏との差を痛感する日々・・・。そこから誕生した活動とは!?

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-鹿児島支部の役員の先生方に向けて、座学を取り入れた
独自の勉強会を開催されているとお伺いしました。この会を始められたきっかけを教えてください。

(鈴木 査智子先生)

私個人の話になりますが、研究院講師になり数年が経つにつれ、いけばなを極めていく環境において大都市圏と鹿児島の様な地方ではだいぶ差が生じている現実を痛いほど感じるようになりました。
花材を得られる環境にはおおむね満足出来ても、学びのベースとなる知識や情報を得るには圧倒的な地理的ハンデがあるわけです。
例えば東京や大阪といった都市部で皆に観に行って欲しい花展や展覧会があったとしても、鹿児島からだとよほど好きな気持ちが無いと観に行けません。
その一方でそうしたアンテナを張らなくともこちらではお花の先生としてそれなりにやっていける、という現実もありました。

そんなギャップを痛感し、学ぶ意欲や喜びを得る人が増えて支部が活気づくにはどうしたら良いかという思いを悶々と募らせる日々でした(笑)。
「みんなで一緒に技術や知識の底上げをしたい!」...そうして誕生したのが、座学とお稽古をセットにした「鹿児島支部役員勉強会」でした。

月に一度、私のお稽古場で開催していて、かれこれ15年程になります。

座学といっても私が一方的に教えるという勉強会ではないんですよ。
毎回テーマがあって各自が発表する、これがポイントなのです。
1人につき3~5分発表していただいています。

ポイントというのは、私が話すだけだと聞き流しになるかもしれないし、あまり心に残らないかもしれません。
でも、自分で調べた事を声に出してみんなの前で発表すると、頭の中に知識が染み込んでいきますよね。
また、能動的に活動することで自主性も生まれる気がします。
支部活動においても、言われた事だけをするのではなく、自分で考え、自分
からやってみようという気持ちに繋がっていくのではないでしょうか。

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-大都市圏とのギャップから生まれた活動だったのですね。毎回、テーマに沿った発表があるとのことですが、どのような内容なのでしょうか?勉強会の概要も教えていただけますか。

(鈴木 査智子先生)
皆さんそれぞれに切り口があって面白いんですよ。
調べ方も図書館へ通う方やインターネットで調べる方など、さまざま。
図録などの資料をお持ちいただき、皆で閲覧することもあります。
例えば「バラについて」をテーマに出しますと、参加されて日の浅い方だとバラ科の植物の紹介とか特徴といった話が中心になります。
それが何年もいらっしゃる方だと、「キリスト教とバラの関係」とか、歴史が切り口だったらイギリスの薔薇戦争における家紋の話とか、バラにまつわる音楽や詩、美術史の中でのバラの扱いなど、いろんな見方に溢れていて私も含めて皆で更にバラの知識を深めていくことができます。

それでもすぐに忘れてしまうこともありますが(笑)。

次に勉強会の概要ですが、月に一回、朝の10時からスタートしています。
先ほども申しましたが座学会とお稽古の二部構成になっていて、まずは15名前後の参加者からテーマに沿った発表があります。
それが10時30分くらいに終了して、その後に稽古が始まります。
始まる前に私から若干の花材説明を行なっていけ込みがスタート。
その後手直しをして、
終了するのはだいたい12時30分くらいですね。

最後に、「来月の座学テーマは何にしたいですか?」と皆さんに伺います。
例えば「この時期だから菊もあるよねー、実物もあるよねー」と話を振ると皆さんの意見が出てきますので、一緒にテーマを決めています。
最初の頃はこの月はこのお花と決めていましたが、今は調べたいものも多岐に渡るようになり、自発的にテーマが決まるようになりました。


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支部長の慧眼により支部役員勉強会が始動。さらに別の勉強会も?

-このような新しい試みをスタートされる際、反対意見などは無かったのですか?

(鈴木 査智子先生)
それは無かったです。
この勉強会は約15年前に本格的に始まったのですが、実はそれ以前から小規模で開催していました。
それを当時の支部長先生がちゃんと見てくださっていて、ぜひ支部役員の皆さんに向けて実施して欲しいと仰っていただけたのです。
そこから支部役員勉強会としてスタートしたのですが、当時の支部長には本当に感謝しています。

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-支部長先生も、支部にとって有益な勉強会だとお感じになられたのですね。そこから今もコンスタントに開催されていると。

(鈴木 茜先生)
実は、今話している勉強会は、幹部・準幹部・それらOB+有志を対象にした勉強会です。
支部のインスタグラム(←クリック)に掲載しているのはこの勉強会で、
これとは別に、参与と名誉幹部の先生方を対象とした勉強会も開催しています。
それは非公開なので存在を知る方はあまりいないのですが(笑)。

(鈴木 査智子先生)
参与・名誉幹部向けの勉強会はもともと実技だけだったのですが、1年ほど前から座学も取り入れるようになりました。
ご年配の先生方が中心なのですが、皆さんテーマについてしっかりと調べてこられるのです。
ご自分のノートにびっしりと書き込まれ、そしてご自身の声で発表なさいます。
準幹部、幹部の先生方については、年齢的にも「勉強しなくてはいけない」という気持ちがお有りだと思うのですが、幾つになられても学びを深めようとされる名誉幹部・参与の先生方には本当に頭が下がります。


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-他にも勉強会を開催されているのですね! 準幹部・幹部向けの勉強会には鈴木 茜先生も受講生として参加されるのですか?

もちろんです!
毎回、みんなの前で発表して、みんなと一緒にいけて、同じように査智子先生の手直しを受けています(笑)。
分け隔てなく、みんなで楽しく学んでいこうという雰囲気作りを心掛けていますね。
ただ、参加者の資格がそれぞれ違いますので、水仙や万年青といった扱いに手慣れていない花材がある場合は研究院講師や研修士がサポートに回っています。

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学ぶことの喜び~支部活性化に向けて

-和気藹々と、役員も講師も研修士もフラットな状態で開催されているのですね!現在は役員の先生方がメインの勉強会ですが、これを一般の鹿児島支部会員まで拡げる予定はありますか?

(鈴木 査智子先生)
そういう話しは実際にありました。
今は中断しているのですが、鹿児島支部には研究院講師が2名(佐藤 美和先生、鈴木 茜先生)いますので、支部の活性化を目指した勉強会を行なっています。

(鈴木 茜先生)
以前、研究会終了後、無理せず残れる人だけ集まって小さな勉強会を開こうという話になり、数回実施しました。
内容は「盛花の観水型をしましょう」・「瓶花の直立型をやりましょう」といったごく基本の判りやすいテーマで、
花材説明~実技~寸評・手直しといった流れで行う1時間強くらいの勉強会です。
ターゲット層は准教授前後の方、そして指導の見直しをしたい専門教授者の方にもご参加いただきました。
今はコロナで中断していますが、詳しい話は平山支部長がお話ししてくださるかと思います。

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-支部内に定例研究会以外の「学びの場」をいくつも設けていらっしゃるのですね。会員の皆さんに向けて向学心や知識欲を刺激する場所や情報の提供はとても大切だと思うのですが、座学のテーマやその切り口を見つけること自体がとても難しいと思います。皆さんどうやって見つけられるんですか!?

(鈴木 査智子先生)
それが皆さん見つけてくるんですよー。

(鈴木 茜先生)
生徒側の目線で言うと、恐らく査智子先生が喜びそうなものを選択してくるんですよ(笑)!

(鈴木 査智子先生)
あぁ、文様とかね(笑)。
でも、調べてくる内容については重なる事も多いですね。
「○○先生と同じ話しだから私は遠慮しますー。」と仰る方もいますが、「いいから喋んなさい。」と発表していただきます(笑)。
本当に皆さん一生懸命調べて来られますからね。

そういえば、鹿児島支部の70周年記念花展の時にルネ・ラリック(wiki)のコーナーを作ったのです。
「それ誰?」という方も多かったのですが、やるからには来場された方に説明できるくらいになりましょうということで勉強していただきました。

(鈴木 茜先生)
ルネ・ラリックを含めヨーロッパのガラス作家や、文人調で使う
中国の器など、花展で扱う器について情報を共有する目的で、数回に渡り勉強会で発表し合いました。
責任を持って自分たちのお花を説明できるようにしようという事だったのですが。

(鈴木 査智子先生)
そうするとみんな面白がるのよね。

(鈴木 茜先生)
そうそう、どんどん拡がっていくんですよ!
調べる事が楽しくなってきて、そこから六古窯とか日本各地のやきもの産地や作家、さらには中国陶磁器について時代別にもっと深く掘り下げたりとか。
皆さん気負わずに楽しく調べていらっしゃいますよ。
調べることで当然知識も得られますが、器のお店の方と繋がったり人脈も増えたりします。

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-なるほど!調べる事が苦じゃなくてどんどん楽しくなってくるんですね!幹部・準幹部向け、参与・名誉幹部向け、そして今はコロナで中断されていますが一般会員向けと、様々な学びの場所を作られていますが、これまでを振り返ってみていかがでしょうか?

(鈴木 査智子先生)
時間の経過とともにメンバーが変わってしまい難しい部分もありますが、それでもやらないよりは良かったと思っています。
あのまま何もせず漫然とお花を続けていることを想像すると、「う~~~~~ん・・・」となってしまいます。
先ほども申しましたとおり、積極的に学ぼうという方が出てきてくれていますし、研究院講師も誕生しています。
勉強会を積み重ねてきたことで知識を得る喜びを感じてもらい、皆さんの中で「もっともっと小原流を勉強したい!」という気持ちが大きくなっていけば嬉しく思いますね。

(鈴木 茜先生)
地区別教授者研究会に毎年出席されているような方は特にですが、小原流の中で「もっと勉強しないといけない、もっと学びたい」という自分の気持ちに気付いている人は多いと思うのです。
そういう方に向けて、「学ぶって面白いでしょ?一緒にどうですか?」と誘えたり、そんなきっかけさえあれば皆さん楽しんで参加されると思うんですよね。


(鈴木 査智子先生)
調べる事が面白い、楽しいと思える事は凄い進歩ですよね。

-最後になりますが、このお取り組みについて今後のお考えはございますか?

(鈴木 査智子先生)
やはり支部に根ざして、もっともっと拡げていきたいですよね。
研究会で良い花をいければそれでいいのではなく、調べる事や学ぶ事について興味のある方は、役員ではなくてもどんどん参加して欲しいです。
知識を得ていくと、最初は点だったものが線になって、それが面になってという風に関わり様がどんどん拡がっていきます。
大人になってからの学びの方法というか、そういうことが面白いと思ってくれる方を増やして、地方に居ても自信を持って活動していって欲しいです。

(鈴木 茜先生)
発表や実技と聞かれて「私が参加しても大丈夫かな?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この勉強会はお稽古が終わったあとに楽しい憩いの時間があるのです。
毎月持ち回りで担当を決めているのですが、最初はお菓子を持ってきてお茶しながら和むだけでした。
でも、みんなお腹を空かせて終わるので、最近は軽食を持ってきています(笑)。
たまたま先月の担当が私だったので、その時はタイカレーを作りました(笑)。
先月のテーマの「蓮」と相まって、「蓮」とタイカレーの東南アジアな雰囲気が良い感じでしたよ。
それぞれが足取り軽く、充足感を持って教室を後にされる姿を見ると、こちらも嬉しくなりますね。

支部役員勉強会の記録と作品はこちら
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今回のインタビューは、研修課程Ⅲ期前日というお忙しい合間を縫ってご対応いただきました。支部内で独自の「学びの場」を創出され、支部の活性化を目指して役員の皆様と共に活動を続けていらっしゃいます。地方の支部といえども研究院副院長と研究院講師2名を輩出されている実績は、技術の研鑽だけではなく、仲間と共に学ぶ喜びを感じつつ、そこから得ていく知識や情報、刺激の積み重ねに因るものと感じました。このような「大人の学び」が出来る場所を産み出すことは、支部活性化に繋がるとても良い事例ではないでしょうか。ぜひ、他支部の皆様も参考になさってください。鈴木 査智子先生、鈴木 茜先生、この度はありがとうございました! 



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