25年7月研究院勉強会が開催されました

開催場所 | 東京 小原流会館 |
---|---|
開催期間 | 2025.07.15 ~ 2025.07.15 |
研究院勉強会について
小原流研究院は家元代行職として支部研究会を通じて小原流の現在を会員の皆さまに伝えながら、小原流の技術を未来へとつなぐために、自己研鑽に努めています。
2025年より指導者・表現者としてのさらなる成長を目指す場、また、研修課程を修了された研修士の皆さまが研究院とともに学びを深める機会として、「研究院勉強会」が開催されています。
ここでは、今回の研究課題の要点および、審査により参考作例として選出された作品をご紹介いたします。
7月開催テーマ「蓮」
指導担当者
小原流研究院院長 小原宏貴
小原流研究院副院長 金森厚至
小原流研究院副院長 鈴木査智子
小原流研究院教授 工藤亜美
1作目 写景盛花様式本位 「蓮」
花/ 蓮(葉9 花2 巻き葉2)
器/白釉小判水盤60cm または 烏泥大水盤60 cm
◆参考作例2作◆
写景盛花様式本位の作例写真は、作品の角度や背景など細やかな調整が必要なため、今回は副院長の判断により掲載を見送りました。
参考作例には、研修士の川越支部 柴田翆光先生と、小原流研究院講師の加々美萌乃先生の作品が選ばれました。
講評
写景盛花様式本位で水もの花材を主材とするときはほとんどの場合近景描写となりますが、蓮を一種でいける場合は遠景描写です。
蓮池に旺盛に蓮が茂る様子を遠くから眺める景観を描写します。
花型構成は直立型です。作品ができあがった後に、きちんと花型を構成できているか今一度ご確認ください。夢中でいけているうちに花留めが動いてしまうことがあるので、最後にしっかり調整しましょう。葉が重なり窮屈に見える、花が前に傾き過ぎてバランスが崩れて見える作品も散見されました。主枝の花が前傾し過ぎるとそれに影響されてすべてが前に傾いてしまいます。最後に冷静な目で、しっかりと調整してください。
蓮をいけるうえで最も大切なのは、葉の選び方と、それに合った葉の配りです。
大きな葉を役枝として立てるのが一般的ですが、あまりにも大きすぎてバランスを欠く場合は少しだけ小さい葉を役枝として使う方がやりやすい場合もあります。ただし、役枝としてあまりにも力がない葉は避けましょう。そして低く配した葉が並んで見えないように必ず調整しましょう。主枝の花は、後ろに引いた葉との合わせ方が重要です。客枝の花は高くなりすぎるとバランスを崩すため、全体との調和を考えて配ります。
蓮の葉のリズム感や花を据える位置を見極める感覚は経験によって養われます。
毎年欠かさず研鑽してください。
2作目 琳派調いけばな
花/ 蓮(葉2 花1 巻き葉1 ※1作目の蓮流用可)+ 持ち込み
器/織部・籠・長方水盤・扇面花器などをランダムに設置
※氏名の下に持ち込み花材を記載しています
◆参考作例12作◆
研修士
茨城支部 仲田 美華
花/ 紫陽花 ブルーファンタジー 薄
研修士
横浜支部 浜口 淳子
花/ アスチルベ かるかや
研修士
静岡支部 鈴木 豊川
花/ 蓮の実 枯蓮
小原流研究院講師
松木 洋子
花/ ジャスミン
小原流研究院講師
馬場 琰珠
花/ ダリア
カラジウム
ベアグラス
小原流研究院講師
青塚 幸枝
花/ スキンダプサス・ピクサス スモークグラス なでしこ
小原流研究院講師
鴨志田 春穂
花/ おもだか(くわい)
小原流研究院講師
野村 由恵
花/ スモークツリー スモークグラス
小原流研究院講師
松田 光美
花/ エンゼルヘアー レックスベゴニア
小原流研究院講師
加々美 萌乃
花/ なでしこ 藪ミョウガ スチールグラス
小原流研究院講師
杉本 豊祥
花/ 昼顔 段竹 ぎしぎし
小原流研究院講師
倉八 環
花/ サラセニア ほてい草 その他水草 アジアンタム スモークグラス
講評
琳派調いけばなのいけ手として大切な心構えは、「新たな美」を追求しつづける姿勢です。
用意された器と取り合わせでのみ琳派調いけばなをいけるだけでは、自分にとっての新たな美を模索しそれを追求する、という本来の目的から外れてしまう可能性があります。自由な表現であるはずなのに固定化してしまっている事こそが、現在の琳派調いけばなに感じている課題です。
そこで今回、様々な種類の水盤をランダムに設置し、蓮に合う花材をいけ手が考えて持ち込むという課題にしました。
その時初めて見た器がどういうものか、どのように取合せた花材と出会わせるのかを瞬間的に考え作品として仕上げる。こうした瞬発力が求められる過程もまた、新たな美について思考し挑戦する一歩目となるのではないでしょうか。
作例を見るなかで、今まで使用されてこなかったような花材があれば、つい注目してしまうかもしれません。しかし、今回は蓮を主題にしているため、蓮に対してどのように合わせるかが重要です。主役の蓮を引き立たせる為の空間としての余白の取り方や、蓮の立ち葉・巻き葉・花との見せ方の兼ね合いで、「こういう部分は過剰ですね」と判断した花材も多くありました。
水盤上で絵画的な表現をするためには、花材の分量やキャラクター、色や形のバランスが重要です。盛り込みすぎると自分でも何を表現したかったのかが分からなくなってしまいます。また一口に水盤と言っても、器の高さや厚み、形(扇・角・小判型・丸型など)によって器の持つ視覚的な存在感は異なります。そうした印象から判断される構図の取り方にも違いがあったはずです。
・余白の取り方
・構図のなかの強弱
・主役を明確に主張し脇役は控える
・花材の個性の取捨選択を行う
・器との出会わせた方合わせを考える。
こうした作品の構成を考えるうえで注意すべき点は、これまでの琳派調いけばなと変わったわけではありません。作者が絵師の視点になって、どこをどのように見せたいのかをしっかり練り上げることが必要です。
また、鑑賞者の視点に立って考えることも同じく重要です。テーマを盛り込み過ぎるあまり作者の想いのみが一人歩きしてしまって見せたいものが鑑賞者に全く伝わらなかったり、花材のみが目立ってしまって作品としてまとまりに欠ける作例もありました。自分が見る側として、どういうものが理解しやすいのかという冷静さも構成を考える際に必要かもしれません。
表現とは究極的には正解か不正解ではなく、「好きか嫌いか」ではないでしょうか。例えば、自分には好きな取合せだと感じても、他からは「好きじゃない」と言われてしまうこともあるかもしれません。しかし、自分が好きだと思う要素を見つけられたら、それはひとつの大きな収穫であり、その好きな要素の伝え方を工夫しつづければ良いのです。このように、新たな美を追求するには、自分の「好き」を明確にして、どう工夫すればより輝きを増すのかを考えて、その「好き」を磨き続けることが大切です。表現という領域に挑戦を繰り返し、自分の「好き」を盛り込んだ作品や琳派調いけばなの新たな美の可能性を見つけていただきたいと思います。