■イチハツ(アヤメ科)
いちはつニオイイリス

 イチハツの語源は、アヤメ科の中で一番早く咲くという意味ですが、実際の開花はシャガよりも半月ほど遅れます。昔は、大風を防ぐと信じられていたため、藁屋根に植えられ、初夏に美しい花景色を見せたといわれます。種名のtectorumは“屋根の”という意味からつけられています。一八や子安草、水蘭といった別名もあります。

 原産地は中国で、中国中部から南西部、ミャンマー北部にかけて分布しています。アヤメ、カキツバタ、ショウブなどと形態がよく似ていますが、イチハツの葉は三〜四センチと幅が広いので、見分けるときのポイントとなります。多年性宿根草本で、半日陰の乾燥地や湿潤な地に生育します。高さは三十センチ〜六十センチぐらいで、葉には光沢がありません。花茎は単軸ですが、よく分岐します。花は紫色で、花径は約十センチと大型です。まれに白い花もあります。外弁の基部に黄白色毛状の突起物があるのが特徴です。

 中国では、イチハツの根を乾燥させたものを鳶屋根または鳶頭といい、めまいや利尿などに効果があるといわれています。江戸時代の『草木図説』(一八三二年)では、イチハツは薬用と記載されていたところをみると、日本でも薬として用いられていたようです。日本に渡来した年代は正確に特定されていませんが、『御湯殿ノ上ノ日記』(一五六三年)に記載されているのが、日本では初めてだといわれています。

 イチハツは、花材としての歴史は長いのですが、ハナショウブやカキツバタなどの美しい姿と色彩のものがありますので、素材として格落ちしたような印象があります。しかし、近代になってからのイチハツは西洋種のものによって改良され、葉がしっかりし、力強さという点では、他のアヤメ科のものに比べてすぐれているといえます。また、花つきも多いのも魅力の一つです。

 現在、花店で売っているイチハツの多くは、別種のニオイイリスです。ニオイイリスは、南ヨーロッパから東南アジア原産の多年草で、日本には一八六七年に渡来しています。葉と花の形がジャーマンアイリスに似ており、葉は白色で、花は白粉を帯びています。また、ニオイイリスとよく似た紫色の花もイチハツとして用いられますが、これはジャーマンアイリスの一品種です。

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