■プリムラ(サクラソウ科)


 寒さの一番厳しい時期、とりどりの色で花屋さんの店頭を賑わすプリムラ。花の季節の訪れを、まっさきに予告するかわいらしい鉢花です。

 プリムラ属の植物はたいへん数が多く、北半球を中心に五百種以上が自生しています。ほとんどが高山植物で、標高千から五千メートルの山岳地帯に最も多くの種が集中しています。大きさも形もさまざまですが、ふつうは丈の低い多年草。ロゼット状の葉の間から花茎を伸ばし、基部でひとつに合わさった切れ込みのある花を、房状に着けるものが多いようです。日本のサクラソウやクリンソウなど花の美しい種は無数にありますが、ここでは、最もポピュラーなポリアンサとオブコニカ、マラコイデスの三種をご紹介しましょう。

 ポリアンサはイギリス生まれの園芸品種。ヨーロッパの山野に分布しているプリムラの一種をはじめ、いくつかの原種を交配して作り出されました。はじめのころは、イギリスではプリムラといえば黄色一色でしたが、十七世紀の初頭に海外からもたらされた種との交配によってさまざまな花色が誕生しました。現在の品種では、赤、オレンジ、紫、青などが出揃っています。花の大きさや形も改良され、径八センチという巨大輪花を着けるものや、八重咲きの品種も登場しています。ひところは草丈三十センチほどの大型のものが多かったのですが、最近では丈の低い品種が主流となってきました。また、ジュリアンという品種がありますが、これはポリアンサにジュリエという種を交配して作られたもの。草丈六センチほどのミニのプリムラとして人気を呼んでいます。

 オプコニカは中国西部からヒマラヤにかけて自生するプリムラ。野性種の草丈は十〜二十センチ、花色はピンクか淡い紫で中心部が黄色というものです。十九世紀末にヨーロッパにもたらされ、ポリアンサと同じように豊富な花色が生み出されました。ポリアンサとオブコニカは花の形はよく似ていますが、前者の葉が長楕円形なのに対して、後者の葉は円形という違いがあります。オブコニカの葉には細かい毛が生えていて、ここからプリミンという毒素を分泌する品種もあり、人によっては触れるとかぶれるので注意が必要です。プリムラの仲間は夏の暑さに弱いのですが、このオプコニカは比較的高温に強いので、自分で栽培して毎年花を楽しみたいという方にはぴったりの品種といえるでしょう。

 マラコイデスの原産地は中国の雲南省など。野生種の草丈は二十〜五十センチにも達し、オブコニカの野生種と似た色の花を着けます。前の二種ほどは改良が進んでいないため、園芸品種でも色の変化には乏しいのですが、小さな花を密集させる繊細な姿が多くの人に愛されています。

 プリムラ(Primula)という属名は、「最初の」という意味のラテン語プリムス(primus)に由来します。英語ではプリムローズ(primrose)と呼びますが、どちらの名前も、ほかの花に先駆けて春一番に咲くことを表しています。また、ぐるりと輪のように着く花から鍵束を連想したのでしょう、ドイツでは「鍵の花」(schlusselblume)と呼ばれています。花の妖精に導かれた娘がプリムラの花の力で城の錠をはずし、財宝を手に入れたという伝説も伝わっています。

 イギリスでは、四月十九日は「プリムローズの日」とされています。この日は十九世紀の政治家、ディズレーリの命日。彼がプリムラを愛したこと、また彼の死後、支持者によって結成された保守的な政治団体が「プリムローズ連盟」と呼ばれたことにちなみます。

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